自己信託

「横浜のアオヤギ行政書士事務所」自己信託につき解説いたします、ご質問やご意見は下記のフォームに記載のうえ、メールにて送信下さい。 なお、返信希望のご質問には、貴メールアドレスの記載をお忘れなく。

 

 まず、「自己信託」は、「福祉型信託」の中核に位置し、「福祉型信託」は「家族信託」の中核に位置し、「家族信託」は「民事信託」の中核に位置しています。

 「自己信託」とは、委託者が、自分自身を受託者として、自己の財産を自分や自分以外の人のために管理・処分する旨を意思表示することによって、信託を設定する(公正証書等※信託法3条3号)ことを言う、単独行為です。 この自己信託は、高齢者・障害者等の生活支援をはじめ、債権などの流動化や証券化、事業の再生や資金調達、業務提携など幅広く、平成20年9月30日から活用できる、新しい制度です。

 例えば、Aさんが、右手に持った5000万円を、文書(公正証書)でAさんに信託すると書いて左手に移すと、その5000万円はAさん本人のものでなくなり、信託財産となります。 Aさんの債権者は、この5000万円を差押えることは出来なくなり、Aさんは、引続き自分や家族のために使用することが出来ます。

※信託法3条3号 

 特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法

 

自己信託の要件

1.信託の目的

2.信託をする財産を特定するために必要な事項

3.自己信託をするものの氏名又は名称及び住所

4.受益者の定め(受益者を定める方法の定め)

5.信託財産に属する財産の管理又は処分の方法

6.信託行為に条件又は期限を付すことは、条件又は期限に関する定め

7.信託法第163条第9号の事由(当該事由を定めない場合にあっては、その旨)

8.前各号に掲げるもののほか、信託の条項


自己信託の信託設定

 自己信託は信託宣言であり、委託者の単独行為で信託が設定されます。 自己信託は、公正証書その他の書面(公証役場の認証等)もしくは電磁的記録により設定されます。


自己信託の目的

 自己信託の目的は、受託者が信託事務を処理する上で従うべき指針であり、基準です。 自己信託については、信託法第8条との関係で、「安定した生活の支援と福祉の確保」あるいは、「信託財産の適正な管理と確実な継承」で足りると考えられる。


信託法第8条(受託者の利益享受の禁止)

 受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない。
 

自己信託の財産

 信託財産は、委託者の財産から分離可能な管理承継出来る価値のある財産です。

一般に管理運用又は管理処分の対象となる移転可能な特定財産で、しかも金銭的価値に見積もり得るものとされています。 従って、積極財産に限られ、債務などの消極財産は含まれません。 また、金銭的価値に見積れない委託者の生命、身体、名誉等の人格権は当然ながら、含まれません。

 

自己信託の受益者

 受益者の資格は、自然人と法人に限られますが、胎児は受益者になり得ます。 この場合は、信託管理人の選任が必要です(法123条)。 委託者、受益者になれますし、また、受託者も受益者になることも出来ます。

 福祉型の自己信託の場合は、受益者本人では、財産管理が出来ないため、支援が必要な者です。 実務的からみて、自己信託で委託者本人が当初受益者になるのが多いのは課税問題があるからです。

 

受益者の具体例

①   高齢の委託者本人

②   高齢の配偶者・認知症配偶者

③   障害を持つ子

④   未成年の子

⑤   浪費癖の強い子

⑥   後添えの配偶者若しくは内縁の妻

⑦   所在不明の相続人

⑧   遺産承継者や事業承継者としての子及び孫

⑨   委託者死亡後の祭祀にかかわる者

 

自己信託の委託者

 委託者は、信託行為の当事者としての地位にあり、当然に各種の権利義務があります。 一方、権利等として、法第145条で制限する旨を定めることが出来るとされています。 

委託者に当然認められる権利は次のようなものです。 
① 受託者の辞任同意権、解任の合意権、新受任者の選任合意権など

② 信託財産管理者の解任に関する裁判申立権など

③ 信託管理人の辞任同意権、解任合意権、裁判申立権、新信託管理人の選任合意権など

④ 信託監督人の辞任同意権、解任合意権、解任裁判申立権など

⑤ 信託の変更合意権、信託の終了合意権、信託終了時の残余財産法的帰属権

⑥ その他

 一方、委託者の地位の相続で、法147条で、「委託者の相続人は、委託者の地位を相続により、承継しない」とされております。

 

信託不動産登録免許税

建物は、固定資産評価額の4/1000です

所有権以外の財産の信託は2/1000です。

「自己信託」という分類はありませんので、全て信託登録になります。


信託課税

 信託にとって原則(障害者に対する贈与税以外)優遇税制は存在しません。 信託課税は、受託者は導管にすぎず受益者が財産を有しているとみなされます。 時には、権利はあるが、いまだ全く受益がないのに課税され、或は、元本受益権を取得していない収益受益者信託財産の全部の価格を取得したとして取扱われることもあります。

 信託課税の規定は、改正前の相続税法では第4 条に置かれていましたが、平成19年度改正では、第4 条のまま改正されたのではなく、第9 条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合-その他の利益の享受)の次に、第三部 信託に関する特例として第9条の2(贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利)が規定されるという形で改正されました。 さらに、第9条の3(受益者連続型信託の特例)から第9条の6(政令への委任)まで信託課税に関する特例が新たに規定されることとなりました。

 

Q事例1:甲が、平成○年○月○日に金銭1 億円を信託し、20年間は受益者を甲の長男A と

 し、毎年80万円ずつを配当することにし、10年後に長女Bも受益者とし、毎年200万円ず

 つを配当することにした。 信託財産が消滅したら、信託は終了することにした。
 この場合、長女B は「停止条件が付された信託財産の給付を受ける権利を有する者」とな

 るから、「受益者として権利を現に有する者」には該当せず、受益者として贈与税の課税

 はされないと考えるが、それでよいか?
A 事例1では、長女Bは、10 年後になって初めて受益者となるが、信託の効力が生じた時

 (信託の設定時)においては、停止条件が付された信託財産の給付を受ける権利を有する

 者ではあるが、「受益者としての権利を現に有する者」には該当しないことから、相続税

 法第9条の2第1項に規定する受益者ではない。 したがって、信託の設定時点では長女Bに

 贈与税は課税されない。 ただし、事例1では、受益者は長男A のがいることから、上記

 の相続税法施行令第1条の12 第3 項の規定の適用に当たっては、その信託に関する権利の

 全部を長男Aが取得したものとして贈与税が課税されることとなる。

Q事例2:父甲(委託者)が、相続税評価額10 億円の上場株式を信託財産、信託期間を30

 年、年収見込額500万円とし、信託受益権については分割し、収益受益者を本人とし、元本

 受益者を子供乙とする信託契約を締結した。
 ※ この株式の相続税評価額が1 株(500円株)当り1 万円、予想配当率10%とすると、信

 託予想利益の額は毎年500万円(10 万株×配当50円)となる(信託手数料等は考慮せ

 ず)。

A事例2: 乙に対して元本受益権(評価額9,900万円)の贈与があったものとして与税が課

 される。 なお、甲に対して課税関係は生じないが、仮に設定時における甲の収益受益権

 の評価額を算定すれば5,628.5 万円となる。 元本受益権:10 億円×0.099(30年、年

 8%の複利現価率)=9,900 万円
 収益受益権:500 万円×11.257(30 年、年8%の複利年金現価率)=5,628.5万円

 

自己信託設定公正証書の具体例

自己信託設定公正証書

 本公証人は、信託設定者A(以下委託者A)の嘱託により、次の法律行為に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。

第1 信託基本事項

(信託の設定)

第1条 委託者Aは、平成26年1月30日、本証書に記載する目的に従い、別紙記載の財産に

 ついて、自己を信託の受託者として、受益者らのために、当該財産の管理、処分及びその

 他本信託目的の達成のために必要な行為を行うものとして信託を設定する(以下本自己信

 託)。

(基本となる要件事項)

第2条 本自己信託にかかる基本要件事項は、次のとおりである。

(1)信託の目的

   第3条記載のとおりである。

(2)信託をする財産を特定するために必要な事項

   第4条及び別紙記載のとおりである。

(3)自己信託をする者の氏名及び住所

   住所 横浜市中区本牧三之谷16-23

   氏名 A

(4)受益者の定め (受益者を定める方法の定めも含む)

   第5条記載のとおりである。

(5)信託財産に属する財産の管理または処分の方法 

   第7条、第9条、第11条記載のとおりである。

(6)信託行為の条件または期限に関する定め

   第6条記載のとおりである。

(7)信託法第163条第9号の信託行為で定めた終了事由

   第6条のとおりである。

第2 信託の主たる条項

(信託の目的)

第3条 本信託の目的は、次のとおりである。

 下記「信託財産」記載の不動産及び金融資産を信託財産として管理運用等を行い、受益者

 である委託者本人及び委託者の長男B及び長女Cの安定した生活及び福祉を確保すること

 を目的とするものである。 殊に、浪費癖を有する受益者長男Bの生にわたる安定した

 生活と最善の福祉を確保するための支援などを行うものであって、一時的な多額の給付は

 しないものとする。

(信託財産)  

第4条 本信託の信託財産は、次のとおりである。

(1) 不動産の信託

   別紙「信託財産目録」第1記載の不動産(以下「信託不動産」)を信託財産とし、同

   不動産についてはこれを賃貸用不動産として管理運用を行う。

(2) 金融資産の信託

   別紙「信託財産目録」第2記載の金融資産(賃貸用不動産の運用益を含む。)  

   (以下「信託金融資産」)を信託財産として管理運用及び処分を行うものとする。

(受益者)

第5条 本信託の第一次受益者は、委託者S及び長男B(昭和50年1月1日生)とする。 

 この場合、第7条に基づき長男Bに給付する金銭は委託者Sが負担している扶養義務の範

 囲内の金額とする。

 2.S死亡後の第二次受益者として、委託者の長女C(昭和55年5月5日生)を指定す

   る。

 3.S死亡以前に受益者長男Bが死亡したときは、第二次受益者として長女Cを指定す

   る。

 4.前2項の場合、長女Cに対しそれまでに長男Bに給付したのと同額程度の給付を行

   う。

(信託時間・信託終了事由)

第6条 本信託の期間(信託終了事由)は、次のとおりである。

 委託者S及び長男B両名の死亡まで。 従って、S死亡以前に受益者長男Bが死亡したと

 きは、委託者Sの死亡をもって終了する。

(信託の内容)

第7条 受託者は、信託財産の管理運用を行い、賃貸用不動産から生ずる賃料その他の収益

 及び金融資産をもって、公租公課、保険料、修繕積立金その他の必要経費及び信託報酬等

 を支払い、または積立、その上で、受託者が相当と認める額の生活費等を受益者に交付

 し、また受益者の施設利用費等を銀行振込み等の方法で支払う。

(後継受託者)

第8条 委託者兼当初受託者Sが死亡した場合は、委託者の長女Cを後継受託者に指定す

 る。

 2.当初受託者Sにつき後見開始、保佐開始の審判の申立または、任意後見監督人の 専

 任の審判がなされた場合は、委託者及び受益者の承諾なくして、当然に当初受託者Sは受

 託者を辞任し、後継の受託者として上記長女Cを指定する。

(信託財産の管理及び処分方法など)

第9条 本信託財産に属する財産の管理または処分の方法等は、次のとおりである。

(1)   信託不動産については、信託による所有権変更(前条の場合は所有権移転)及び信託の

   登記手続きをし、その余の信託財産(金融資産)については信託に必要な表示または

   記録等を行うこととする。

(2) 信託財産の保存あるいは管理運用に必要な処置は、受託者がこれを行うものとし、信託

    不動産について他に賃貸し、または賃貸しているものは賃貸人の地位を継承する。

(3) 受託者は、本信託事務の処理につき特に必要な場合は専門的知識を有する第三者 に委託

       することができる。

(4) 受託者は、本信託開始後速やかに、信託財産目録を作成して受益者に交付する。

(5) 受託者は、本信託開始と同時に信託財産に係る帳簿などを作成し、受益者に対して以後

       6ヵ月ごとに適宜の方法でその内容につき報告する。

(6) 受託者は、受益者若しくは受益者の任意後見人等(成年後見人及び保佐人等をも含

        む。)から報告も求められたときはすみやかに求められた事項をその者に報告するもの

       とする。

(7) 期間満了により信託が終了したときは、受託者は、本項(5)記載の信託財産にかかる帳

        簿等を作成して後記清算受託者に信託財産とともに引渡士事務引継ぎを行うものとす

        る。

(8) この信託条項に定めのない事項は、受益者または成年後見人等(保佐人、任意後見人を

       含む。)と受託者の合意によって定めるほか、信託法その他の法令に従うものとする。

第3 信託終了時の条項

(清算受託者)

第10条 信託終了後の清算受託者として、前記長女Cを指定する。

(残余財産の清算手続き及び帰属権利者)

第11条 信託財産については、清算受託者において、清算手続きを行い、残余財産につき次

       のとおり給付し帰属させる。

(1) 長女Cに帰属させる。

(2) 長女Cが死亡している場合は、○○○○に帰属させる。

(受託者の報酬)

第12条 受託者に報酬は支給しない。