参議院一票の格差は、違憲・違憲状態・事情判決?

 

 

 「横浜のアオヤギ行政書士事務所」が選挙の一票の格差につき解説いたします。 ご質問やご意見は下記のフォームに記載のうえ、メールにて送信下さい。

 今月26日に、2つの弁護士グループが最大4.77倍だった昨年7月の参院選は違憲だとして、選挙無効を求めた計16件の訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎)は違憲状態と判断して、選挙無効の訴えは退けました。 

 最高裁は平成24年、最大格差5倍だった22年選挙を違憲状態と判断しました。 都道府県単位の選挙区で議員定数を決める現行制度の見直しを求めていました。 定数を「4増4減」する法改正の結果、昨年選挙の最大格差は議員1人当たりの有権者数が最少の鳥取と最多の北海道で4.77倍でした。

 同種訴訟では、(1)著しい不平等状態にあるか(2)是正のための合理的期間を経過したか-に着目し、いずれも該当しなければ「合憲」、(1)のみ満たす場合は違憲状態、(1)(2)を満たせば違憲とします。  高裁判決は違憲・無効1件、「違憲・有効2件、違憲状態13件でした。

「違憲」と「違憲状態」の違い

 国政選挙での1票の格差訴訟を巡る裁判所の判決では、しばしば「違憲状態」という表現が使われます。
この「違憲」と言い切らずに「状態」が付いた判断は、どのような違いがあるのでしょうか。 1票の格差訴訟は、選挙区によって有権者が投ずる1票の価値に大きな格差があることが「投票価値の平等を保障した憲法に違反している」として、選挙を無効にすることを求める訴えです。 こうした訴訟では多くの場合、裁判所は訴えを認めるかどうかの審理に当たり、2段階で検討を進めています。
 まず検討するのは、「選挙当日、選挙区の間で生じた格差が著しく不平等だったといえるかどうか」です。
 これまでの参議院選挙の最高裁判決では、6.59倍の格差があった平成4年の選挙と、5倍の格差があった平成22年の選挙で、違憲の問題が生じる程度の著しい不平等な状態になっていた」と認定されました。 この第1段階での認定が、違憲状態と表現されるものです。 ただ、この段階では、まだ「憲法違反」と言い切ることはできません。
 裁判所は、さらに第2段階の検討を進めます。 憲法は、参議院選挙の選挙区や投票方法を法律で決めると定めていて、国会はどのような制度を採用するか大きな裁量を持っています。 しかし、実際に選挙制度を変えようとすると、政党や議員によって立場や考えが異なるため、意見を調整するのにどうしても時間がかかります。
 このため第2段階の検討では、違憲状態の選挙が実施されるまでに、国会がどれくらい真剣に格差是正に向けて取り組んだのか、また、どのくらいの期間、選挙制度を検討する時間的な余裕があったのかを見極めるのです。
 その結果、「十分に時間があったにもかかわらず、漫然と放置した」と評価されると、初めて「違憲」という判決になるのです。
 


事情判決とは

 通常、ある行為や法令が違法とされた場合、その行為や法令の効力は否定され、初めから存在しなかったものとなるというのが大原則です。 よって、今回の裁判の場合でも、昨年行われた参議院選挙は違憲とされれば、その選挙は最初からなかったこととなり、選挙はやり直しとなるのが筋です。 しかし、現実には通常、裁判所は、「選挙は違法だが、選挙は有効」との判断が下されます。

 本来、「事情判決」という制度は、行政事件訴訟法(31条)に定められています。 この規定は、ある行政機関の処分(許可、認可等)について、その処分が違法であるとして取り消しとすべき場合でも、処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、判決において、その処分が違法であることを宣言しつつも、原告の求めた請求(行政機関の処分に対する取消請求)を棄却することができると定めたものです。 そして、「事情判決」の制度は、ある行政機関の行為の取消しを求める訴訟において使用されることを想定しており、今回のような選挙のやり直しを求める訴訟への使用は本来、想定されていませんでした。

 また選挙の無効訴訟について定めた公職選挙法は、今回のような選挙関係の訴訟に、「事情判決」の制度について定めた上記行政事件訴訟法の規定を準用することを認めていません。 しかしながら、裁判所は、この「事情判決」の根底にある考え方(法理)は、「一般的な法の基本原則」であるとして、いわば事情判決制度を「準用」し、選挙は違法と宣言するが、行われた選挙自体は無効としないという判断をしているのです。