「横浜のアオヤギ行政書士事務所」が準拠法に関する通則(国際私法)につき解説致します。 ご意見やご質問は下記のフォームに記載のうえ、メールにて送信下さい。 なお、返信希望のご質問には、貴メールアドレスの記載をお忘れなく。
近年、外国人との婚姻、離婚、養子縁組、民事紛争などが増加しており、それらに対応する法律は、日本国法か又は外国人の本国法か?が、問題になってきます。
法に関する通則法は43条からなり、総論と各論に分けられています。 この法律関係について定める各論の諸規定は、民法の諸規定と同じように配置されています。
第4条から第43条(法例(明治31年法律第10号)第3条から第34条に相当↓参照)までは、渉外的私法関係に適用する準拠法を指定することを目的とする法である国際私法に関する規定です。 そのうち、第4条から第37条(法例第3条から第27条に相当)までは国際私法各論と講学上呼ばれている部分の一部を構成し、第38条から第43条(法例第28条から第33条に相当)までは国際私法総論と講学上呼ばれている部分の一部を構成する(第43条(法例第34条に相当)は、条約に基づき制定された扶養義務の準拠法に関する法律や遺言の方式の準拠法に関する法律との間の調整規定です)。
法例(明治31年法律第10号)
法の適用関係に関する事項を規定する日本の法律としては、本法施行以前においては法例(1898年・明治31年法律第10号)が効力を有していました。 この法例は、1898年6月21日の官報に公布され、同年7月16日に施行されました。 これにより、それまでの法例(明治23年法律第97号、旧法例)は廃止されました。 そもそも「法例」とは法の通則の意味であり、法例という題名を持つこの法律は、法の適用関係一般に関する通則を規定することを目的とした法律でした。 もっとも、その内容はほとんどが準拠法の指定を目的とした国際私法に関する規定でした。
法の適用に関する通則法の成立。 本法は、上記の法例中の国際私法に関する規定に関する見直しのため、法例の全部改正法として制定されました。 法案は第164回通常国会に提出され成立、2006年6月21日に公布(平成18年法律第78号)、2007年1月1日に施行されました。 本法の規定は、原則として施行日前に生じた事項にも適用されます(附則第2条)。 ただし、附則第3条の例外があります。
第4条(人の行為能力)
「人の行為能力は、その本国法によって定める。」と規定されています。
具体例で解説しまと、18才のドイツ人青年が日本で短期滞在中に高級カメラを衝動的に買いましたが、親の許可(追認)を得ていないので、この売買契約の取消をカメラ店に主張して、代金返還を請求しました。 このような行為能力に関する問題は適用通則法第4条第1項に規定されています。 それによると、外国人の本国法(ドイツ)が適用されることになります。
第24条(婚姻の成立及び方式)
「婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。」と規定されています。
具体例で解説しますと、16歳の日本人男性と16歳のアメリカ人女性は結婚することができますか?という問題は、各当事者の本国法に基づき決定されます。 すなわち、日本人は日本法、アメリカ人はアメリカ法の従って判断されます。
第25条(婚姻の効力)
「婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦の最も密接な関係がある地の法による。」と規定されています。
具体例で解説しますと、日本人男性とフランス人女性が結婚した場合、両者は共通の性(ファミリーネイム)を名乗らなければならないか? それとも、夫婦別姓も認められるかという問題(婚姻の効力の問題)は、夫婦の本国法が共通ではないため、常居所地が同じときはその地の法により、同じではないときは夫婦の最密接関係地法によることになります。
第27条(離婚)
「離婚の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦の最も密接な関係がある地の法による。 但し、夫婦の一方が日本の常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。」と規定されています。
第31条(養子縁組)
「養子縁組は、縁組の当時における養親となるべきものの本国法による。 この場合において、養子となるべきものの本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。 2.養子とその実方の血族との親族関係の終了及び離縁は、前項前段の規定により適用すべき法による。」と規定されています。
夫婦が共に養親になる夫婦共同養子縁組のケースにおいて、夫婦の本国法が異なるときは、それらを累積的に提供するのではなく、①養父と養子との関係については、養父の本国法、また、②養母の養子との関係については、養母の本国法が適用されます。 従って、一方の本国法が、夫婦共同養子縁組を認めていない場合には、縁組は成立しません。 なお、養親に配偶者がある場合の養子縁組について適用通則法は特別規定を設けていませんが、準拠法の決定に関し、複雑な問題が生じ、縁組の成立が困難になることもあるので、特別に定める国もあります。
養親の本国法が準拠法として適用される結果、養子が保護されなくなることを回避するため、第31条第1項後段は、養子の本国法上の保護要件が充足されることを求めています。 なお、我国の戸籍実務では、養子の本国の官公署が発行した要件具備証明書が提出されれば、同人の本国法上の保護要件が充足されるものとして扱われています。
第36条(相続)
「相続は、被相続人の本国法のよる。」と規定されています。
① 日本に居住する外国人の相続の場合は、通則法第36条の定めにより、このような
状況においてはすべて日本の国内法により律することはできません。
② 米国のように州ごとに異なる私法が存在する場合、相続に係る法の適用が多州間に
わたる場合は、どの州の法を準拠法にするのかという問題が生じることになりま
す。 例えば、相続財産である不動産が米国のいくつかの州に所在する場合、不動
産の所在地である州の法律が準拠法となります。 そして、米国の州法に定める
財産法では、夫婦共有制の州と夫婦別産制の州が混在しています。 さらに、米国
には、日本にない合有(joint tenancy)というような財産制度が存在します。
③ 日本人が分割主義を採用している米国に相続財産である不動産を残した場合の法の
適用については、通則法第36条では、相続は、被相続人の本国法によることから、
日本の法律が準拠法になります。 他方、米国の国際私法では不動産はその所在地
法を準拠法とすることから、国際私法の積極的抵触となり、この場合の解決方法は
ありません。
④ 米国人が日本に相続財産を残した場合は、通則法第36条によれば、被相続人(米
国人)の本国法(米国法)によることから、米国法が準拠法になりますが、米国で
は、不動産所在地国である日本法が準拠法になります。
国際私法ではこのような場合を消極的抵触と呼びますが、通則法第41条により反
致が認められて日本法が準拠法となります。 なお、反致とは、国際私法の原則の
みで準拠法を定めずに、外国法の規定を考慮して準拠法を決めることをいいます。
⑤ 各国の相続法では、包括承継主義と管理清算主義という対立する財産承継制度があ
りますが、包括承継主義は、被相続人の財産及び債務のすべてが相続人に包括的に
承継されるもので、日本は、限定承認の場合を例外として包括承継主義をとってい
ます。 管理清算主義は、米国、英国等が採用しているもので、相続開始によっ
て被相続人の相続財産の清算が行われ、残余財産が相続人に分配されます。
⑥ 日本人が米国に住所及び財産を有する状態で死亡した場合、遺産分割に係る国際裁
判管轄は、被相続人の最後の住所地国又は相続財産の所在地国とする説が多数説で
す。
⑦ 相続の場合、包括承継主義と管理清算主義の相違以外に、相続財産の範囲、相続人
の範囲、相続分、遺留分、分割方法等で国ごとに相違が生じますが、それぞれの場
合の準拠法は次の通りです。
1 相続人の範囲は、被相続人の本国法です。
2 胎児の相続の準拠法は被相続人の本国法です。
3 代襲相続の問題は、被相続人の本国法です。
4 養子の相続権は、通則法第31条により原則として養親の本国法によります。
5 相続順位、相続分、遺留分については、いずれも被相続人の本国法です。
⑧ 相続人の間で遺産分割の協議が調わない等の場合は、家庭裁判所に調停分割又は判
分割を申立てます。 しかし、相続財産(不動産)が外国にあるケースでは、家庭
裁判所は、調停分割の場合、調停委員会により協議され、調停で合意されれば、手
続終了となりますが、合意ができなかった場合、家事審判官の職権で行われる審判
に付されることになります。 相続財産が外国に所在し、当該外国が相続分割主義
の国(例えば、米国、英国等)であれば、相続財産が不動産ということになります
ので、その所在地国法が準拠法となります。このような場合、審判が当該外国で承
認される可能性はありません。
⑨ 相続において相続財産よりも相続債務の方が過大である場合、相続放棄又は条件付
相続である限定承認を行います。 国際相続ではこのような場合の準拠法は、外国
人が被相続人で債務超過の状況にあることから相続放棄又は限定承認を行う場合の
準拠法ですが、通則法第36条では、相続は、被相続人の本国法によることから、当
該外国人の本国法が準拠法になります。
第37条(遺言)
「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。」と規定されています。
遺言の成立と効力はどこの国の法律によるべきでしょうか? 例えば、外国に長期間居住していた日本人が、現地で自筆の遺言書を残して死亡した場合、通則法第37条では、遺言の成立と効力はその成立の当時における遺言者の本国法によることになっています。 また、遺言の方式の準拠法に関する法律第2条によれば、遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは有効となります。
1 行為地法(問題となる行為のなされる場所の法律)
2 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法律
3 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法律
4 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法律
5 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法
したがって、日本人の遺言については、民法第968条(自筆証書遺言)の規定どおりでない場合でも上記のいずれかに適合する場合は有効となることになります。
最密接関係地法の原則
通則法は、法律行為の成立と効力について、当事者が準拠法を指定していない場合には、準拠法が「最密接関係地法」によると定めています(8条1項)。 つまり、契約(法律行為)の時点において当該契約(法律行為)に最も関係の深い地(最密接関係地)を準拠法とするという規定です。
そしてこの「最密接関係地」をどのように判断するかについては、以下のように考えられています。
特徴的な給付を行う当事者の常居所地
まず、契約(法律行為)において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、そうの給付を行う当事者の常居所地が「最密接関係地」と推定されます(通則法8条2項)。 この「特徴的な給付」とは、例えば物品の売買契約なら、通常は当該物品の引渡義務が「特徴的な給付」と解されます。 物品の売買契約においては、売主は物品の引渡義務を負い、買主は代金を支払う義務を負いますから、両当事者にそれぞれ給付義務があります。 しかし、当該契約においては、他の契約と区別する特徴となるのは当該物品の引渡という点にあるため(買主の金銭支払義務はどの契約でも同じ)、売主のみが特徴的給付を行うと判断されます。したがって、この場合、8条2項により、物品の給付を行う売主の常居所地法(注※)が「最密接関係地法」と推定されるということになります。
(注※) 常居所地とは、明確な確立された定義はありません。しかし一般的には、当事者の主な事務所・営業所や、相当期間現実に居住している場所を指すといわれています。
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